172 王として、母として

2004年8月28日

 妖精王セレーネが、最後にあのような行動に出てしまった時、悲しむルナに対して、セレーネは妖精王としての自分の使命を説こうとします。「そんなの分からない、お母さんはお母さんだもの!」、なぜあんなにも自分のことを愛してくれている、そして何よりも大好きな母がそのような道を選ばなければならないのか、それをルナに理解せよというのが無理な話です。しかしあれは本当に母としてではなく、王としての使命を重んじたからこその決断だったのでしょうか?ルナよりも王たる使命を選んだのでしょうか?
当然にセレーネは母として、ルナと別れルナに悲しい思いを背負わせてしまうことなど望むはずがありません。世界を守りながらルナと一緒に生きて成長を見守って、ゆくゆくは自ら妖精王の道を拓いてあげたかったに違いありません。では、もしセレーネがゼフィスと共に滅びる道を選ばなければ世界はどうなることでしょう?あの場でゼフィスから逃れたとして、弱体化したゼフィスが再び力を蓄えるまでの間はその脅威から逃れられるかもしれません。しかし、決して脅威はゼロにはなることはなく、いつかまた復活を遂げて世界が破滅の危機にさらされることになります。セレーネは自身がゼフィスに体を乗っ取られてしまったわけですから、ゼフィスの恐ろしさ、闇の強さがいかほどのものであるのか十二分すぎるほどに分かっています。そのような脅威を、母として次の時代を担うルナに残すことが果たしてできるでしょうか?
おそらくセレーネは、ルナと時を過ごさんがためにいつかルナを危険な目に遭わせることよりも、悲しみを乗り越えてでもルナのために安全な世界を残すことを考えたのではないか、王として世界を守る義務は確かにあったかもしれませんが、将来の脅威を消し去ることにより、ルナを守りたかったのではないかと思います。決してルナよりも世界のことを重んじたからこその行動ではありません。長い長い目で見た時にルナが幸せに暮らせる道を残してあげたい、その一心故の行動ではないか、と。死別の悲しみと将来の世界、共に生きる喜びと測り知れない脅威、この選択の狭間でセレーネは相当苦しんだことでしょう。そして出した答えがあの通りとなりました。
ルナがこのことに気付くのはまだまだ時間がかかるかもしれませんが、セレーネの本当の想いを知ることが出来た時、きっと妖精王としてより一層強く優しくなれるのではないかと願いを込めて信じています。