198 海に沈んだ黄金の鍵(その2)

2005年6月26日

 ナルシアとカイの関係、今回のテーマを選んだ当初はそれほどややこしい問題でもなかろうと思っていましたが、実際のところ考えれば考えるほどに頭を悩ませることになってます。この2人の関係について深く大きく踏み込んできたのが、まさにファーストアニメなわけですが、そもそもカイとはどういう存在なのか、果たしてナルシアはもう1人の自分とも言うべきカイのことについてどのように思っていたか、これを考えるにあたり、まずは各作品における描かれ方を確認しておく必要があります。その移り変わりを起点に考えを推し進めていくことにいたしましょう。
ポポロ1においてカイが初めて登場したいきさつは、沈没する幽霊船で溺れているピエトロ達を助けたい→森の魔女は海に近づけない→黄金の鍵で人間に変身すれば大丈夫→しかし黄金の鍵で変身していることはばれてはならない→そのためにカイという姿・性格になってピエトロ達と接する必要があった、でしたから、この時点ではまだカイはナルシアの内面に存在するもう1人の自分(別人格)というややこしいものではなく、単に黄金の鍵によって変身したことがピエトロ達にばれないようにするために、ナルシアは自分とは正反対の性格な女の子となるようあえて振舞っていただけ、と考えれば話は非常に簡単にすることができました。その後、ピエトロに正体がばれた後もカイに変身していたのは、氷の魔王と戦うためにはカイの変身能力が必要であったからという「能力的」な意味合いが強いようにも思えます(話が横道に逸れますが、カイの動物への変身能力は黄金の鍵の力によるものですが、ナルシアの姿からでは動物には変身できないのでしょうか?)。この点に関してアートブックに次のような記載があります。

「彼女(=ナルシア)自身、カイをもう1人の人格としてとらえるべきかどうか決めかねているようです。おとなしく、内向的なナルシア、活発で外交的なカイ。最終的にピエトロたちに知られ、どちらも1人の少女の中にいる人間だ、ということは理解されました。とはいえ、やはり自分の心の中となると話は別です。彼女の気持ちの整理には、もう少し時間を必要とするかもしれません」(アートブック 52ページより抜粋)

 果たしてカイという人格は、単にナルシアが自分とは正反対の女の子を装ったにすぎないのか、黄金の鍵の力によってナルシア自身もしらないもう1人の自分が現れてきたものなのか、ポポロ1の時点ではまだまだ分からない状態でした(さらに話が逸れますが、黄金の鍵を使っていたルナは変身前も後も性格は変わらず、また変身していることがピノン達にばれてもナルシアの時のように力を失うようなこともありませんでしたが、これは果たしてどのような理由が・・・?)。
そしてファーストアニメによってナルシアとカイの関係について深く触れられることとなります。ガミガミ魔王やヒュウと戦う時にはカイに変身し、時には自分の性格では言い出せないことをカイに変身することによってピエトロを励ましたりと、時と場合に応じて積極的にカイに変身して、その人格を活用?していました。また1人悩むナルシアに泉の中からカイが話しかけてくるようなこともあり、2人が相互に別個に意思を疎通しているような様子を見せることもあったわけです。その最たるものが第18話の「心の森」、まさにこの話の中でナルシアとカイが同時に存在して対峙するという事態となり、ここで初めてナルシアはカイのことを妬み羨ましく思っていたことを認めた上で、それでもカイはもう1人の自分だと受け入れ、ナルシアから離れようとするカイを引き止めることができ、2人は元の鞘に納まります(実はこの時にカイがナルシアに「もう少し一緒にいてあげる」と優しくささやくのですが、このセリフも十二分に意味深・・・ではあるもののこれについてはまたいずれ別途探求をば)。しかし最終話においてピエトロを助けるために、ナルシアは黄金の鍵を投げ捨てて駆け寄っていきましたから、カイをもう1人の自分であると認めながらもやはり「ナルシアである自分」があるべき本当の姿だと思っていたのではないかと思われます。
そしてポポロ2の公式サイトにおいてカイの存在が明確に示されることとなります。公式サイト内のナルシアの紹介において、

「森の中に閉じ込められて生活をしていたので、妖精本来の自由奔放な性格が封印されてしまった。その性格はカイの姿になった時、解放される。」

と書かれました(後にこの紹介内容は「黄金の鍵を使ってカイに変身した時は、正反対の自由奔放な性格となる」と変更されましたが)。このことから、冒頭に挙げた問いについては、「ナルシアは正反対な性格を装っていたのではなく、本来の性格が黄金の鍵によって引き出された」ということになりますね。もっともポポロ2の中においては、特にナルシアはむしろカイに変身することを楽しんでいたような節も見受けられたので、アートブックに書かれていたところの「気持ちの整理」がついたと言えましょう。
ようやく今回の本来の疑問である、前項の「ナルシアは一体どんな気持ちで黄金の鍵を捨てたのでしょう?そもそも黄金の鍵を捨てなくてはならない理由とは一体なんだったのでしょう?」に戻ります。人間になるとはすなわち黄金の鍵を使えなくなること、これはカイとの決別を意味します。カイの性格が黄金の鍵によって引き出されていたものである以上、これが使えなくなれば二度とカイが表に出てくることはなくなってしまいますから、パーセラの町で黄金の鍵を手にしながらナルシアはこれまでのことを振り返りながらたくさんのことを悩み考えたものと思います。その上で自分の迷いを断ち切るために、その道を選択したことに対してカイにけじめと決着をつけるために、自らの意志で黄金の鍵を海に投げ込んだのではないでしょうか?自らの意志、と書きましたが黄金の鍵は自ら持つ者を選ぶ、と言われていますから既にこの時別の運命の歯車が静かにしかし確実に回り始めていたのかもしれません。
あくまで本来の性格を「引き出す」黄金の鍵がなくなってしまっただけですから、カイは表に出ることはなくても、ナルシアの心の中にあり続けることと思います。もしくは既に別個の性格ではなく1つのものとして収まったのかもしれません。ナルシア王妃がカイに変身した姿を見てみたい気もしますが、既に黄金の鍵はルナへと渡り、ナルシアには使えなくなっているはず、その姿は永遠に・・・ですね。